「ちょ、痛ぇって!どこ連れてくんだよ!」


そんな怒号も耳の外、決して中に入っては来なかった。何故ならその怒号を聞くのに意味は感じなく、重要なのはこれからの流れなのだから。

ざわめく声が飛び交う廊下をくぐり抜け、廊下の突き当りまで歩いた。
握っている手をパッと離すと、長富は手を痛がりながらキッと俺を睨みつけてきた。


「こんな所にいきなり連れ込んで...何する気だよ?」


その問いにはしばらく答えられなかった。俺自身頭の中は静止しているに等しかったからだった。
先程の月璃の飛び降り自殺、冷静になって見れていたつもりでも身体は正直だった。視界に映るものを脳が拒絶し、今更になってあの光景が頭によぎった。

コンクリートが血に染まっていく、月璃の本来なら有り得ない変形、肉がちぎれる音、首の断面、周りの叫び声と嘔吐とその臭い。

止まっていた脳が動き出し、より鮮明に体感として現れた。俺は耐え切れなくなり、手を口に抑えるとその場でしゃがんでしまった。


「お、おい....何で無理矢理連れてきたお前がダウンしてんの?...もしかして連れ吐き?」


そんな呆れた声が聞こえてくる。そして同時に二つの走る足音が近付いてくるのも聞こえた。


「おい!置いてくなって言ったろ!?それにお前....自分勝手した癖になんだその情けない姿。」