月璃は片付けようとはせず、ずっと両手を握ってブツブツと呟いていた。

月璃が座っている場所は窓側の一番後ろだった。距離的には加奈と青山が近いが、俺も遠い訳では無い。

俺達は三人一斉に立つと、月璃の元へ向かってゆっくりと足を歩ませた。
二人や三人組の仲を避けながら向かい、もう少しで話しかけられる距離まで行く。

そう思った時、月璃がボソッとある言葉を呟いた。その言葉は月璃に意識がいっていた俺達三人しか聞き取れなかっただろう。
俺達はその言葉の意味と重さを瞬時で理解し、同時に察した。周りの音は全て置き去りに出来るほどの言葉を聞いてしまった。


"もう....限界"


その言葉に俺達が硬直していると、月璃はバッと勢いよく立ち、転がる椅子の音にクラス中の目線が一気に集まった。
月璃はいきなり叫んだ。その叫びは俺達、クラス全体をさらに硬直させる効果が感じられた。

だがその叫びは恐怖の叫びではなく、覚悟の叫び、いわゆる雄叫びにも聞こえた。

月璃はその叫びを止めずにすぐ隣にある窓の鍵を開け、窓の両端に手を添え、足を淵のところに置いた。

青山はその叫びの呪縛から解け、月璃に向かって手を伸ばした。だが、それは届くはずも無く、その前に月璃は手と足に力を込めて、日の光が照らしている空へ身体を投げた。