恐怖の渦の中


「兄ちゃん、あんた罪な男だなぁ。ワシにはこんな可愛い子を土下座なんか出来ないねぇ〜。まぁ家のカミさんくらいはいいけどな!ガハハハハハッ!」


「おいおい丹造さん!そりゃああまりに酷いんじゃないんですかい?ハハハハハハッ!」


吉永の土下座を元に何故か話に花を咲かし、病室にいる二人の高齢男性がうるさく騒いでいた。
吉永はその音が聞こえてから、少しだけ頭をあげるとその二人の方へと視線をやった。

吉永がどんな顔をしているか見えなかったが、騒いでいた男性二人が同時におとなしく、顔を背けた所からどんな表情なのか理解出来た。


「わ、分かったから!お前の勝ちだよ。教えてやるから早く顔を上げてくれ!」


俺がそう言うと、吉永はバッと頭をあげて嬉しそうな表情をしていた。


「ほ、本当に!?ありがとう!」


「あぁ、それは分かったからさ、場所を移そう。お前立ち歩けたり出来るのか?」


「うん。別に頭の負傷だし、医者も問題ないっていうから。だけど、流石にまだ走るったりするのは怖いかな?」


俺と加奈は病院服で頭に白い包帯を巻いている吉永を連れて、病院の屋上へ向かった。
緑色のコンクリートに染められ、夕暮れの日と風に当たっている屋上には、人の姿は見えなかった。