病院まではそんなに時間はかかることはないと思っていたが、実際徒歩で向かうと結果時間が必要だと感じた。病院まで行くといっても親の車か自転車で、徒歩で向かう経験は無かったのであった。

病院までの道のりでは、理沙の家に向かう時のような沈黙はなく、少しばかりだが会話をしていた。

今まで事件に囚われた自分では到底話すことも考えなかった日常の話をしていた。加奈とのやり取りでお互い緊張感がほぐれたのか、内容は薄いものだが、それでも沈黙には至ることはなかった。

"家で何してる?""何か趣味があるのか?""好きな食べ物は?"などといった、ごく普通の会話で、それ以上の事は聞くことはなかった。それでも、少しは病院までの道のりの距離を忘れさせてくれるだけの効果はあった。

真っ白で存在感を放つ大きい病院である口元、入り口を目の前にすると俺達は会話をピタリと止め、少し緊張感が漂ってきた。

自動で開く入り口を二人で抜けると、すぐ横にある受け付けで吉永の病室を尋ねた。
「同じクラスメイト」と伝えると、結構すんなりと答えてくれた。

突き当りにあるエレベーターに乗り込み、吉永がいる三階のフロアまで昇っていった。
エレベーターから身を出すと、廊下には病室の番号プレートと長椅子が廊下の奥まで続いていることが目に映った。