「ご、ごめんなさい西条君...私、いらないことを言っちゃった....」
調べる為に外へ出していた本や教科書を閉まっていると、後ろから細々とした声で話し掛けてくる。俺は手を止めて振り返ると、加奈は泣きそうな目で斜め下を向いていた。
加奈は今回だけじゃなく、いつもオドオドとしていた。周りの印象が変わってばかりの環境で、唯一変わらない加奈の様子に自然と笑みが浮かんだ。
「いいや、結局はこうした方が安心なんだ。またここに来る二度手間を省いたって事だけだ。そんな気にするな。」
俺の返事を聞くと、加奈はコクリと小さく頭を縦に振って見せた。
「じゃあ俺達に出来ることは、闇サイトの返信くらいだな。取り敢えず今日は帰るぞ。いつまでいるのも迷惑だろうしな。」
俺はスっと立ち上がると、理沙の部屋のドアを開けた。自分でも分からないが、何故かそこで足を止めてしまい、不思議がっている加奈を先に部屋から出させた。
俺は理沙の部屋を改めて目に焼き付けた。理沙はこの小さい部屋で一人、誰にも相談出来ずに恐怖と戦った。そう考えると、尊敬の気持ちが心の底から湧いてくる感じがし、「頑張れ」っと後押しをしてくれるようにも思えた。
俺は誰もいないその部屋に軽く一礼し、静かにドアを閉めた。



