恐怖の渦の中


俺は嘘を付いていない。俺自身もう嘘を付くのは必要最低限にしようと決めていた。嘘を付き続けると一人で何とかしようと思うようになって、理沙と千恵の姿が脳裏に浮かび上がり苦しくなるからだ。これは一生物だと俺は確信していた。

俺の返答を聞くなり、加奈はご飯が食えない犬のようにしょんぼりとした。


「そ、そっか....ご、ごめんなさい!西条君が落ち込んでるのにこんな話持ち出して...本当に迷惑だよね....わ、私もう帰るね!」


加奈は手提げバックを持つと、勢いよくリビングを飛び出した。


「お、おい!待てって!」


俺が引き止めると、加奈は玄関前で立ち止まってくれた。


「お前はどうなんだ?何か知ってる事は無いのか?」


俺が質問すると、加奈はさっきより身体を硬直させ、バックの持ち手をギュッと握っていた。


「ご、ごめんなさい...現実的なものは何も....そ、それじゃあ....お邪魔しました....」


加奈はすぐに靴に履き替えた。ドアノブに手を掛ける直前に俺はあることに気がついた。加奈は"現実的なもの"と言っていた。つまり"非現実的なもの"なら何か掴んでいるということだ。


「ま、待って!」


俺は衝動的に足を進ませ、家を出ようとした加奈の手を掴んだ。手を掴むと同時に加奈はこちらを振り返った。