千恵はまたポロポロと涙を零す。涙は次第に床に溜まっていった。
「いいって、気にするなよ。苦しかったんだろ?俺こそお前の状態に気付かないで呑気に授業してた。謝るのはこっちの方なんだ。」
俺は肩を優しく叩きながら声を掛けてやると、千恵は小さく頷きながら「ありがとう」っと呟いた。
「電話した後もそれから女の人の攻撃は続いて....そしたら部屋のドアを開けた女の人を見て....もう幻覚だってことは頭から離れてて、ドアに手を触れれた実体が現れたって思ったの。
私、無我夢中で殺そうとした。あと少しで殺せる所まで来たって思ったら幻覚が解けて...」
「それが....俺だった。ってことか」
「うん。私、今まで偉そうな事を並べてきたけど、いざって時に人に助けてもらって...その助けてもらっていた人を傷付けちゃうなんて....本当に最低だよね...」
「そんなことはねぇ!千恵は今まで一人で戦ってきたのと同じだ。俺は手遅れ直前にしか手を差し伸べてやれなかった。最低っていうのは俺だ。女の人の情報をまともに聞き出せもしない....」
千恵は俺に続いて何か言いたげだったが、黙り込んでしまった。静寂の空間、さっきとは異なり静かな雰囲気がリビングに満たされていく。千恵にとっては願っても叶わなかった平和の空間だった。



