全然答える様子が見られない敦を前にした先生は、真っ黒の太めのメガネをクイッと上げた。
「...本澤。どうしたんだ?最近元気ないぞ。女子に振られたりしたのか?」
先生は冗談のつもりで言って、クラスのみんなもそう思っているのでクスクスとしているが、その冗談がほぼ当たっている敦は苦笑いが精一杯だった。
「じゃあもう解答を言うぞ。答えは四だな。この公式は絶対に覚えておけよ?
....よし。じゃあ次はプリント学習に入ってもらいます。」
先生は教壇の上に置かれていたプリントの山を持ち上げると先頭集団に配っていく。俺は前から三番目の席なのでプリントが来るまでにはさほど時間は掛からなかった。
このプリント学習は先程までやっていた所なのだが、生憎授業には集中していなかったので大半はよく分からなかった。
意味の分からない暗号を解かされること数十分。時計を見てみるとそろそろ授業の終わりが近づいた。次は昼休み。昼飯で時間を少し使ってしまうが、ようやくゆったりとあの続きを読める幸福感が満たされてきて、暗号を解くことはほぼ不可能になった。
「....あ、あの....」
後ろから弱々しい声が聞こえて後ろを振り向くと、そこには同じクラスメイトである斐川 加奈が少し目線を下に向けてオドオドとしていた。



