千恵は俺に背中を見せたまま、息を荒くし、頭を抱えていた。千恵が頭を痛めているのかっと心配になって、一瞬警戒を緩んでしまったのがいけなかった。
千恵はそのタイミングに合わせたかのように、振り返るのと同時に俺に覆いかぶってきた。俺はそれに逆らえず千恵と一緒に倒れ、千恵に馬乗りにされた状態になった。
俺はこの状況はまずいと判断し、身体を捻らせ、千恵を振り落とそうとしたが、その前に千恵は両手で俺の顔目掛けて鋭く所々茶色いカッターを振り下ろしてきた。
俺はとっさに千恵の手を捕まえてそれを阻止しようとした。俺も必死だが、千恵と必死だった。力を込めながらブツブツと「死ね死ね」っと呟いていた。
千恵は明らかに弱っているものの、最後の力を振り絞っているのか、体重をかけながら力強く刺してこようとしてくる。俺はその外見からだとありえない力に押されつつあった。
「....クッ...ち、千恵!!目を覚ませ!!よく見ろ俺だ!!西条栄治だ!!!」
俺は耐えながら大声で千恵に呼び掛けた。千恵は口ではなく、行動で問いに答えてきて、更に力が強まった。
火事場の馬鹿力のような力に徐々に押されていき、カッターの先端はゆっくりと俺の右頬に入り込んだ。
「グッ....うわあああああああ!!」
今まで感じたことの無い痛みで、力が抜けそうになった。



