なのに....どうして....。何笑ってんの?....何が可笑しいのよ!!殺してやる、殺してやる!!殺す殺す殺す殺す殺すぅ!!」
千恵は両手でカッターを持つとイノシシのごとく一直線で突進してきた。俺は千恵頭を手で後押ししながら身体を捻らせ、ギリギリで避けた。千恵はそのままベットの端にぶつかり、呻きながら倒れた。俺の服の丁度横腹の部分は切られていた。
俺は当然あの状況で笑っていない。千恵は今何を見ているのか、この時俺はある事を思い出した。
理沙が可笑しくなったあの日だ。理沙は教室のクラスメイトに向かって全員に威嚇し、親友の吉永を殴りつけた。最初は嬉しそうにしていたが、途中から正気に戻ったのか泣き喚くようになる。あの変異と同じように感じた。
当時の理沙、今の千恵は幻覚を見ているとしか考えられない。でなければ、必死に求めた助け舟である俺をわざわざ蹴ることはしない筈。だが、一体何の幻覚を見えているのか、それは想像出来る。
「....あの女の人か....俺が女の人に見えているのか?千恵。」
俺の問いに応答はしなく、千恵はゆっくりと身体を上げる。千恵の言葉通りだと、ここに来る前に色々と酷い幻覚を見たらしい。あの女の人は俺だけではなく、例えばぬいぐるみに被せて姿を千恵の前に出すことで、大事にしていたぬいぐるみが散乱しているということにも繋がる。



