恐怖の渦の中


千恵の手にはワタが付着している錆付きのカッターだった。恐らくこれでぬいぐるみを解体してたに違いない。だが、千恵はこれを持って襲い掛かってきた。千恵は本気で俺を殺そうとした大きい証拠だ。
千恵の正気を戻す方法を探すより、まず凶器になるカッターを取り上げようと、震える手でジワジワとカッターに手を伸ばした。

あと少しで届きそうというところで、カッターを持っていた千恵の手がピクっと動いた。俺はとっさに手を引いた。引いた瞬間、その勢いで早くカッターを取ればよかったと思ったが、引いて正解だったとすぐ気付く。
千恵はピクっと動かした後、すぐに俺の手を目掛けてカッターで切りかかってきた。

いち早く気付いたおかげで何とか傷を負うことはなかった。
千恵はドアノブに手をやって、膝を笑わせながら弱々しく立った。フーッフーッっと息を荒らし、睨みつけながらカッターをこちらへ向けてくる。


「フーッ!フーッ!殺してやる....殺してやる....今度こそ....その顔にこれを食い込ませて!殺してやるう!!」


「ま、待てって!落ち着け千恵!おれは」


「気安く呼ぶなぁ!あんたのせいで、私の人生はめちゃくちゃ!!あんたは私の目の前に現れて何がしたいの!?恨みでもあるの!?無いわよね!!私はあんたみたいなやつと話した事も会ったことも無い!!