正直この場から逃げたいが、そうも言ってられない。
「お、おい千恵?だ、大丈夫か?来てやったぞ?」
恐る恐る声を掛けてみると、千恵は黒い瞼の奥そこで目を真っ赤に充血し、涙を流しながらこちらを見てみた。鼻水はだらしなく垂れていて、ヨダレが口からでかかっていた。もういつもの笹委員長の面影はなく、女子としてはとりたくないことをしていた。
だが、その顔もほんの数秒間だけだった。千恵はみるみると恐怖に呑まれていく顔に変化していった。だが、それはただ単に恐怖しているだけではなく、睨みつけて反抗的な態度も出ている。
「また....また出てきたの!?いつも直前になって消えるくせに!今度こそ....今度こそ殺してやるう!!もう逃がさない!絶対に捕まえて、逃げる前に殺してやるうぅ!!!」
千恵はそう吐き捨てると、近くにあった何かを持って俺に飛び掛ってきた。
俺は仰天し後ずさりすると、ぬいぐるみを踏みつけてその場でまた尻もちを着く。千恵は丁度俺の上を飛んで、目の前のドアに頭からぶつかり、そのまま力無く倒れた。
千恵はまるで死にかけの獣。獲物を見つけ、力を振り絞って狩りをする猛獣のように見えた。力無く倒れた千恵もまだ、拾ったものはギュッと持っていた。
「これは....!カッター?」



