俺は里沙の母親の前で頭を深く下げた。下げてから自分ではっと気付いた事があった。自分は今、必死ということだった。
自分の事でもないのに、何故心を痛んでいる遺族の人に無理なお願いして、頭を下げてまで頼んでいるのかが分からない。
ここでふと二日前の千恵の言葉が思い浮かんでしまう。
これは俺の意識とは無関係に行っている事だ。つまり、俺は元は本当に優しいやつなのかもしれない。
自覚すればする程、優しい自分の姿を思い浮かべて吐き気が起きる。
頭を下げてからしばらくすると、里沙の母親は俺の手肩に手をポンッと当てた。
「....分かったわ。いつでも来ていいわよ。その苦しんでいるクラスメイトさんを助けてあげてね?」
里沙の母親はさっきよりも優しいトーンで言ってくれた。俺は小さく頭を下げてお礼を言うと、ワゴン車へ小走りで向かった。
その日の夜は寝落ちするまではずっと自分のパソコンに向かって、女の人について調べていた。似たような話は幾つもあったが、その殆どが自然に消えていっただけで、特に改善策はおろか対策法もない。
千恵に今の状況を知りたいがために連絡も入れたりしたが、一向にあっちからの返信は来ない。
昨日までは、送ったらすぐ返ってきていたのにだ。



