あいつは親族と同じくらいの悲しみを背負い、事実を受け止めたくないのだろう。
俺と加奈の前にいた生徒がお焼香で親族に挟まれた廊下を歩いて、里沙の写真の前でお焼香をしていた。里沙の写真は死ぬ直前とは違い、イメージ通りの明るい笑顔をしていた。
いざ、俺と加奈は前に歩み、お焼香をした。加奈はうろ覚えなのか、泣きながらこちらをチラチラと見ながらぎこちない仕草だ。
お焼香を終えた俺はそのまま、役員の指示によって外へ出された。だが、このままワゴン車に移ることはなくその場で他の生徒を待つ。俺より先に来ていた生徒もそうしていた。お葬式終わりに里沙の親族の方と話をするらしい。
寒い外でしばらく待たされたが、数十分後に親族の人がゾロゾロと会場から出ていった。津地先生は俺たちに待つよう指示すると、無理な取引をしているビジネスマンのようにすぐさま駆け寄って話しかけた。
津地先生が話しかけてから、玄関付近で会った里沙の母親らしき人が近寄ってくるのはあまり時間はかからなかった。
「....今日は娘のために来てくれてありがとうね。...娘の事、忘れないでやってあげてください。」
俺達は涙を浮かべながら頭を下げる母親と合わせて、頭を下げた。それしか出来ることがなかった、そして下げている時に自分の無力感が痛感してしまっている。



