千恵を運び終わった俺は、気にはなったがどうすればいいのか分からなく、教室へ戻ろうとした。
「ちょっと待ってくれるかな?栄治君...だったよね?」
ドアに手をかけたところで和一先生に呼び止められた。今はあんまり関わりたくなかった。
「そうですけど....もう授業が始まっちゃうんで、もう行きますね。」
「あぁ、大丈夫だ。そんなに時間は取らないし、遅れても俺の名前を出せばいい。少し聞きたいことがあるんだ。」
「....なんですか?」
ドアから手を離して、すぐ横にある長椅子に座るのを見ると、和一先生は機嫌が良い表情になった。
「栄治君はさ、矢野さんの話をしても大丈夫?あんまり思い出したくないかな?」
「...別に大丈夫ですけど」
「あぁ、じゃあ良かった。あんまり時間を取らせたくないからすぐに本題に入るけど、矢野さんが亡くなった時、あるいは亡くなった後の事を思い出してほしいんだけど、何か気になる事とかある?」
「気になる事....ですか?」
「うん。例えば、矢野さんが亡くなった事で少し参っている人とか、妙に興奮するとか....なんでもいいんだ。別にお母さんが急に優しくなったとか、毎日の新聞配達の人がいつもと違う人とか、そんなどうでもいい事でもいい。」



