「もう良いよ自分でやっとくから。今友達待ってるんだろ。早く行けば」
顔の手当てが終わりかけたところで葵が言った。
「…友達じゃないし」
私は低く言う。
「友達」が嘘で塗りかためられたものであり、偽物だとしたら、そんなもの私はいらない。
どうせ無いんだったら本物だって求めない。
顔を上げると、葵が驚いて目を見開いていた。
「………なんか、姉ちゃん変わったな。昔はーーー」
ガタっ
葵が何かを言いかけていると、廊下で物音が聞こえた。
「なんだろ」
廊下に出てみると、壁に立てかけてあったモップが倒れていた。
「モップが倒れてるだけだ」
葵に向けてそう言うと、葵はただ「ふぅん」と言った。
「まぁ良いや。私部屋に戻るから。待たせてることに変わりはないし。じゃあね」
私はひらりと手を振り、リビングをあとにした。
