貴方の残酷なほど優しい嘘に

その彼の言葉で気が付いた。あれ程最近疲れが取れないと思っていたのに、昨日も今日も殆ど疲れたとゆう意識がない。

「ゆかさん、晩御飯まだですよね?何処か別の店に行きましょうか?」

疲れはさ程でもないが、空腹感は激しかったので誠君の言葉に頷く。喫茶店を出てから誠君は「近くに美味しいお店があるんですよ」と、先を歩き始めた。

ゆっくりとした歩調は自分に合わせてくれているのだと私が気付いたのは彼が3度目に振り返った時だった。

目的地は歩いて10分程の場所にあった。大きくはないが、小綺麗なお店で入り口に掛かる暖簾には『あじよし』と書いてあった。

「こんばんは」

彼に続いてお店に入ると、大将が「お、長里君、いらっしゃい」と、彼に声を掛けた。笑顔でそれに応える誠君。後で、電話帳の彼の名前を修正しよう。

「彼女かい?長里君も隅に置けないね」

「いえ、残念ながらまだ違います」

困ったように返した誠君の横顔を私は凝視していた。

『残念ながら』?

『まだ』?

誠君は気にした様子も無く、カウンターの端の席の椅子を引いて私の方を向いた。何をしているのか一瞬わからなかった私は女子力が低いのかも知れない。結局、誠君に「どうぞ」と言われて私は椅子に座った。

「お酒、大丈夫ですか?」

椅子に座った私に誠君が声をかける。

「うん、じゃあ生ビールを」

言ってから直ぐに後悔した。生ビールなんておじさんみたいだ。しかも、誠君は未成年なんだから、一人で飲むとゆう事だ。

「じゃあ大将、生ビール2つと料理はお任せでお願いします」

当たり前の様に注文して、誠君は私の隣の椅子に座った。

「え?生ビール2つ?」

「内緒ですよ?」

イタズラっぽく誠君は人差し指を口の前に立てる。その仕種は大人びていて、凄く子供っぽくも見えた。