貴方の残酷なほど優しい嘘に

「お母さん、今は僕の事を信じられなくても構いません、だからゆかさんを信じてもらえませんか?」

母は何も答えなかった。それは肯定なのか、否定なのか私にはわからなかった。

「誠、部屋に行こう、疲れたでしょ」

リビングを出る前に誠は母に頭を下げてから、おやすみなさい、と、言った。母は同じ言葉を誠に返した。

「ねえねえ、誠君って本当に16歳なの?」

尋ねるさきに、誠は笑顔で頷いていた。部屋に着いてドアを開けた時、さきは『お姉、静かにしてよ』と残して自分の部屋に入って行った。

部屋に入り、2人でベッドに腰を下ろしてから同時に大きく息を吐き、私達は思わず顔を見合わせて笑った。

「ゆかさんごめん、嫌な思いさせちゃった」

この人は何処まで優しいのだろう。嫌な思いをしたのは自分なのに、こんな時にまで私を気遣ってくれる。

「嫌な思いをしたのは誠でしょ、ごめんは私の台詞だよ」

不意に誠が私の肩に手を回し、引き寄せた。

「俺は嫌な思いなんて何もしてないよ、たった一回会っただけでわかってもらおうなんて思ってないから」

自分の愛する人に愛されるってなんて幸せなんだろう。心の底から暖かくて、陽だまりの中に身をおいているような、そんな気分だった。

私が身体に少しだけ力を入れると、誠は簡単にベッドに背中をつけた。覆いかぶさるように身体を預け、私は誠の唇に自分の唇を重ねる。

数秒のキスの後に顔を上げると、そこに驚いた誠の顔があった。

「ゆかさん」

「私達のファーストキスだね」

「俺は人生のファーストキスでもあるけどね」

はにかんだ笑顔で誠は言った。

「人生のファーストキスって、先輩とは?」

予想外の言葉に、私は思わず口走ってしまった。

「先輩って狭山さんの事?なんで俺が狭山さんとキスするの?」

私は勘違いしていた。考えればすぐに気付く事なのに、誠はそんな関係を持つような人間じゃない。ただの私の下衆な勘ぐりだった。

さらに追求しようとする誠の口を塞ぐように私はもう一度唇を重ねた。

焦る事はない、私達は始まったばかりなんだ。これから少しずつ一緒歩いて行けばいい。きっと楽しい事ばかりじゃないけれど、一緒なら乗り越えられる。