貴方の残酷なほど優しい嘘に

さきに先に食べられたのは納得がいかなかったが、早く食べたいとゆう気持ちがそれをまさり、揚げ出し豆腐を取って皿の上で半分に切ってから口に入れた。

「・・・嘘、ほんとだ」

「あんた達、私が作った揚げ出し豆腐が美味しくないって言いたいのね、後で覚えておきなさいよ」

なんて言いながら母も揚げ出し豆腐を頬張る、続いて父も口にいれた。

「やだ、全然違う。どうして?」

「これは大したもんだ」

続けざまに称賛され、誠はにっこり微笑んだ。

「あ、ごめんなさい、飲み物出してなかったわね。ビールでいいかしら?」

尋ねられた誠が困ったように私を見た。実は私はこの困った顔が好きだった。この顔をしていると誠が16歳の少年に戻る、私が唯一年上を実感できる時だから。

「誠は16歳、未成年よ」

母と父が固まった。さきだけは素知らぬ顔で御飯を食べている。

「そ、そうだったの、てっきりさきと同じぐらいだと思ってたから。ごめんなさいね」

どうにか口を開いたが、動揺は隠せていなかった。

「ハッハッハッ!」

突然父が笑い始め、4人は一斉に同じ方向を向いた。

「その歳であれだけの啖呵をきったのか、大したもんだ。母さん、構わないからビールを持って来なさい、誰が見ているわけでもなし。板前をしてるんだ、呑めない事はないんだろ?」

呑めないどころではありません。私は心の中でだけ呟いた。

1時間も経つ頃には、父は酔っ払い誠にぐだをまいていた。これには流石の誠も辟易し、救いを求めるように私を見たが、声は出さず口の動きだけで『今日の仕返し』と言った。

父はそのまま眠ってしまい、4人で片付けをした。

「いいから座ってて」

と言う母に誠は、座ってると落ち着かないので、と返していた。

ふと気付いて時計を見ると、11時を回っていて、私は誠に声を掛ける。

「誠、終電大丈夫?」

「あ、もう間に合わないね。タクシーで帰るからいいよ」

やり取りを聞いていた母が『勿体ない、泊まって行きなさい』と、言った。その言い方が実の息子に言っているように聞こえたのは私の惚気だったのかもしれない。

「いや、でも服も無いですし」

「少し小さいけど、お父さんの着ればいいわよ」

断る事は難しそうだと判断したのか、誠は『すみません、御言葉に甘えさせてもらいます』と、母に言った。