貴方の残酷なほど優しい嘘に

母が了承してくれたのを見て、誠は頭を下げてから、背広を脱ぎネクタイを外す。そのままカッターシャツの袖のボタンを外し、腕捲りをしようとしたので私は慌てて止めた。その下にはあの傷がある。

「ちょっと誠、傷が・・・」

「構わないよ、この傷も俺なんだから。それともゆかさんは俺のこの傷を恥ずかしいと思うの?」

「そうじゃないけど・・・」

「それなら何の問題もないよ」

そう言って誠は袖を勢いよく捲った。白過ぎる肌に幾重にも入った赤い線。父も母もさきも誠の左腕を見ている。

「ゆかさんも手伝って」

誠は気にした様子もなくキッチンに入った。

「見ていい?」

冷蔵庫を指差して誠は言う。ダメと言ったらどうするつもりなのか、そんな意地の悪い事を思ったが、いいよ、と返した。

冷蔵庫の中はほとんど何もなかった。お豆腐と卵と竹輪、野菜室にはネギと玉ねぎ、人参。

誠は豆腐を取り出して、八つ切りにした。手鍋出して、と言われ、それに従う。水とだしの素、みりんに醤油を入れて火にかけた。

「片栗粉あるかな?」

言われて探して見たが見当たらない。長らく実家のキッチンに立つ事が無かった所為でものの場所がわからなかった。

「片栗粉はここ」

いつの間にかさきが居て、戸棚から片栗粉を取り出し誠に差し出した。ありがとう、と笑顔で誠は受け取る。

「う、うん」

その、さきの顔見て、私は今こいつドキッとしたな、と思った。

誠に言われて豆腐に片栗粉をつけている時に、揚げ出し豆腐を作っているんだとわかった。

その間、誠はネギを切っていた。ただネギを切っているだけなのに、その姿はやはりプロなんだと私に思わせた。

誠がフライパンに1センチぐらい油を入れ、火をつける。

「油少なくない?」

「出来るだけ少ない油で焼くように一面をずつ揚げるんだ、その方が油少なくて済むし、油っぽさが抑えられるから、時間はちょっとかかっちゃうけどね」

豆腐が揚がって、皿に盛り付けて出汁を入れる前に小皿に出汁を入れて味見をする。

「ん、美味しい」

「えー、自画自賛する?」

「料理人は自分の舌を何があっても疑うな、自分の料理が美味しくないと思ったら腕を磨け。そう料理長に言われてるから」

言いながら出汁を皿に注ぐ誠を見ていると、自然と顔がにやけてしまう。誠は私が幸せだと思えるように全力を尽くすと言ったが、既に十分過ぎるほど幸せだと思った。

「お待たせしました」

5人がテーブルを囲んで座り、いただきます、と手を合わせる。いの一番にさきが揚げ出し豆腐に手を伸ばした。そのまま、皿には持って行かず一口かじった。

「・・・ん、嘘、美味しい」

「ちょっと、嘘って何よ嘘って、誠が作ったのが美味しくないとでも思ってたの?大体なんで私より先にあんたが誠の手料理食べるのよ!私だってまだ食べた事ないのに!」

「違う違う、お姉、ほんとに美味しい。いつも食べてるのと全然違う、揚げ出し豆腐って作る人でこんなに違うの?」