貴方の残酷なほど優しい嘘に

翌火曜日、待ち合わせ場所に着いた私を待っていたのは初めて見るスーツ姿の誠だった。

「今日、ゆかさんのご両親いる?」

その一言で私は全てを悟って、慌てた。

「ちょ、ちょっと、何するつもり?」

「何って挨拶だよ。一緒に暮らすのにご両親に挨拶しないのはおかしいでしょ?」

私の元彼はおかしかったらしい。

筋は通っているが急過ぎる。両親には誠の存在すら話していないのに、卒倒しかねない。どうにか説得しようと試みたが、誠は一歩も引かなかった。意外と頑固なのだと思った。

しぶしぶ私が折れるとゆう結末を迎えた。せめて帰る前に両親に連絡させて、と、取り出した携帯は誠に奪われた。

「いつものゆかさんの家に行きたい」

屈託のない笑顔で言う誠が憎たらしく思えた。

「そんな事したら私が後でなんて言われるかわからないからダメ!」

「言われるのは俺じゃなくてゆかさんだもん」

この子はなんて事を爽やかに言うんだ。

「遅くにお邪魔すると迷惑だから早く行こう」

そう言って歩き始めた彼の背中に「それより迷惑な事をしようとしてるよ」と私は声をかけた。

家に着き、玄関の前に立つ。こんなにもこの扉を重たいと思ったのは初めてだ。気が重いのに、後ろに誠が立っている事を幸せだと思っている自分もいた。

「・・・ただいま」

玄関に両親の靴が並んでいるのを見て、私の願いが届かなかったと思った。

「あれ?お姉、今日遅くなるって言ってなかった?」

そう言いながら、妹の視線は私の後ろに立つ誠に移動する。

「初めまして。長里誠と言います」

「あ、どうも、妹のさきです」

さきは私と誠を交互に見ていた。

「お父さん達は?」

「リビングに居る」

靴を脱いで上がってから、誠に上がってと促した。

「お邪魔します」

誠が靴を揃えている時、さきが耳打ちしてくる。

「ちょっとお姉、年下じゃん、珍しいね。いくつ?私と同じぐらい?」

私は『16歳』と短く答えて、リビングの扉を開ける。さきは固まっていた。

「ゆか、あなた今日遅くな・・・」

誠に視線を固定したまま、母は言葉を忘れたみたいに立ち尽くしていた。それを見た父は老眼鏡をかけたまま、やっぱり誠の方を見ている。

老眼鏡をかけたままじゃ見えにくいだろうに。

不意を突かれた両親とは違い、しっかりと心の準備をしていた誠ははっきりとした口調で言った。

「突然お邪魔して申し訳ありません、長里誠と言います。ゆかさんと結婚を前提にお付き合いさせていただいています」

両親の思考が追いつかないのも無理はない。娘が突然同棲していた彼氏と別れて出戻って来たかと思ったら、わずか1週間後に何の前触れもなく違う男を連れて帰って来て、しかも、結婚を前提に付き合っている。などと、言われて『はい、そうですか』なんて言えるわけがない。