貴方の残酷なほど優しい嘘に

私が誠君に応えようと口を開きかけた時、彼は言った。

「返事を聞く前に、ゆかさんにしておかなきゃいけない話があります。聞いて貰えますか?」

さっきの『色々』の事を言っているのだろう、私は頷いて誠君の言葉を待った。

「中学2年の時、俺には彼女が居ました。一つ年上の彼女は、俺の友達のお姉さんの友達で、彼女から告白されて付き合う事になりました。特に美人だったり、人目を引く人では無かったけど、俺は彼女の事を好きでした」

言葉を紡ぐ度に誠君の表情が消えていく。優しい眼ですら、今は黒く沈んでいる。私は言いようのない不安に襲われた。

「優しい人でした。底抜けに優しい人でした。俺は彼女が怒った所を見た事がありません。中学生の恋なんて幼稚なごっこ遊びかもしれないけど、それでも俺は幸せでした」

完全に表情は消えて、私の知る誠君は何処にもいなかった。

「ある日、いつものように校門で待ち合わせて、一緒に帰り、やっぱりいつものようにお互いの家に向かう別れ道で『じゃあね』と俺は言い、彼女は『バイバイ』って言って角を曲がって行きました。その日の夜、彼女は自殺しました」

これは誰?

まるで何かに取り憑かれた様に抑揚の無い、でもよく通る声で誠君は朗読をするように淡々と話す。

ダメだ。

この話をさせてはいけない。

「誠君!もうやめて!」

叫ぶ様に言う私を見た誠君の眼は、いつもの優しい彼の眼だった。

「あ、すみません。聞きたくないですよね、こんな話し」

「そうじゃない、誠君の事もっと知りたい。その話しも知りたい。誠君の事全部知りたいよ。でも、どうしてそんな顔をして喋るの?」

嘘ではないのはわかる。同情を引くための嘘ならばもっと感情を込めて、悲痛な面持ちで話すはずだ。

「顔?」

誠君は私の言っている意味がわからない、そんな顔をした。

「そんな他人事みたいに、小説でも読むみたいに話せる事じゃないでしょ?泣いてもいい、ここには私しかいない、誠君が悲しいなら抱き締めててあげる」

「泣けないんです。泣かないんじゃない。泣けないんです。彼女が死んだと知った時も、葬式の時も、俺宛の遺書を読んだ時も、泣けなかった。悲しいのに涙が出ないんです」

ああ、この子はきっと囚われているんだ。その中学2年とゆう時に囚われている。