貴方の残酷なほど優しい嘘に

「こうゆう所って脱衣所に扉付いてないんですね」

ゴソゴソと服を着る音がして、誠君が顔を出した。

「すみません、勝手にこんな所に連れてきてしまって、家はわからないし取り敢えず近くにあったんで・・・」

「ううん、私こそごめんね、迷惑かけちゃって」

この歳になってお酒で意識を飛ばすとは思わなかった。これではどちらが歳上かわからない。情けなくて隠れてしまいたかった。

ベッドの端に座っている私に、向かい合うような形で置いてあるソファーに誠君は座って誠君は言った。

「コーヒーでもいれましょうか?」

誠君のいれてくれるコーヒーも捨て難かったが、私は水かお茶が良いと答えた。水のペットボトルを取り出して、蓋を開けてから渡してくれる。

その時、肌着だけしか着ていない彼の伸ばされた右腕に私の視線は吸い寄せられた。白過ぎる右腕の内側に無数の赤い線が入っていた。見てはいけないと思いながらも、それは私の視線を捉えて放そうとしない。

そう言えば、日曜日も今日も暑いのに長袖を着ていた。

「ご、ごめん」

どうにか視線を外して私は謝った。謝るのも何処か違う気がしたが、他に言葉を思いつかなかった。

「気にしないでください。それに、今日はこれを見て貰うためにゆかさんを誘ったんですから」

誠君の言葉の意味を私が思案していると、彼が続けて口を開いた。

「昨日ゆかさんが言った『責任取って』ってゆうの、本気ですか?」

【冗談だよ。ちょっと誠君をからかっただけ】

って、私が笑顔で言えばそれで終わる。何も始まらないし、誠君とこの先2人きりでで会う事もないだろう。

誠君が傷付く事も無かった。でも、その事に私が気付くのはもっと後の事だった。

「・・・本気だよ」

私は気付いてしまった。自分はこの男の子の事が好きになっている。自分の半分程しか生きていない男の子の事を、まだ2回しかあった事がない男の子の事を。

「責任って言葉を使いたくないから、俺の言葉を使わせて貰います。俺は前に色々あって人を好きになる事を避けてました。好きになりそうになっても、無意識にブレーキがかかるんです。なのに、ゆかさんの事を好きになるのを止められなかった」

なんて真っ直ぐな瞳で私を見るんだろう。

なんて真っ直ぐな言葉を使うんだろう。

私が何処かに置き忘れて来た物を彼はまだ持っているんだ。