「お母さんはいつもお姉ちゃん贔屓だわ」


「何言ってんの。あたしは昔から平等に皆が好きよ」


いつもはバリバリの格好いいキャリアウーマンな母が、雑誌を読んで寝転んで、そんなことをのたまう。

そんな返事で私は満足したりしない。


一番になりたいものだ、誰だって。

私はいつもお母さんの一番になりたかった。

大抵のことは長女の姉が成し遂げてしまって、私はなす術もなかったのだけれど。


「ああ、もちろん。透流のこともね」


母が言った、トオル、という名前が一瞬だけ理解できなかった。

トオル。


「そう、透流」


「知帆があんまり帰ってこないから、心配してたわよ。ちょくちょく連絡寄越しなさいよね」


本当は全くそんなこと思っていないのに、お母さんはそう言う。

そうか、透流がここに来たのか。


「透流、元気だった?」


久しぶりに口にする名前だ。

んー、と考えるような仕草をしてからお母さんは脇に置いたマグカップから紅茶を一口飲んだ。


「身体は元気そうだったよ」


「なあに、それ。心は元気じゃないの?」


「言ったでしょ。あんたのこと心配してるって」


電話してあげたら。


そう言い残して、お母さんは目を閉じた。

夕方なのに昼寝と言って寝るのが好きなのだ。


おやすみ、と言って自室へ戻る。


久しぶりに透流の声が聞きたかった。