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 「ただいまあ」 
 

大きな声で誰にでもなく言いながら靴を脱ぐ。

大学で講義を受けてから、二日ぶりの自宅だ。

彼の部屋を出たのは朝だったのに、今は夕方。


恋人と別れようと時間は過ぎるし、お腹は空く。
 
そんなことは分かっていたのに、全てが現実のことじゃないみたいで悲しかった。
 

就職するまでは実家にいるという約束で、私は自由にさせてもらっている。


おかえり、という声がして、足を止める。

 
自分の部屋に行く前にリビングに向かった。


「お帰り。今日は帰ってきたんだね」  


ソファにお母さんが寝そべって雑誌を読んでいた。

私が入ってくるのを見ると、ちらりとこちらに目をやる。


「ただいま。うん、何でお母さん帰ってるの?早くない?」


少し驚いてそういうと、お母さんは曖昧な返事をした。

視線はファッション誌に落としたままだ。


「貴音が、オランダのお土産を渡しに来るって言うから。午後から有給とったのよ」


「お姉ちゃんが?」


それはまた。と心の中で舌打ちする。

ふらふら旅するのが好きな、ろくでもない姉だ。