【短編】朝焼けホイップ




「なに、してるの─────?」



か細い声が、私たちの意識を呼び覚ました。

姉の声。


「おね、」


「貴音さん……」


どうすることもできなくて、私たちは姉の顔を見つめた。

離れていても分かるほどお酒の臭いがして、顔の赤い姉。

でも完璧に酔いが覚めたのだと分かる表情を浮かべて。


どうして。

どうして今日に限って。

どうして今、この時間に帰ってきた。

どうしていつも私の邪魔をする。


頭が真っ白になるよりも早く、絶望が私たちを襲った。


姉は何を考えているのか分からない顔で、ねえ、と私たちに呼び掛ける。

彼女の目には恐ろしいものに写るだろう。

裸の妹と、幼馴染みの男。

そしてそれはもう家族になるはずで。


「お母さんの、幸せ…邪魔するの?」


知ればお母さんと透流のお父さんは困るだろう。

そして、結婚しないかもしれない。

それは、彼らにとって幸せなことではない。


「そんな…つもりじゃない」


お前が。私の幸せを壊してきたくせに。

そう、私は姉を憎んでいた。

わけもなく。

いや、わけならあった。

 
ちゃらんぽらんなくせに、何でもそつなくこなす姉。

真面目だけれど今一つな私。

素直な発言が好印象な姉。

どこかひねくれた私。

周りは姉を評価し、それはお母さんも同じだった。


お前が幸せを語るな。


呪うように姉を睨んだ。


「どうするの?」


私の眼光に怯んだように姉は後ずさる。


「言わ、ないから……頼むから貴女たちは」


そう言って姉はまた出ていった。

お酒の臭いばかりが鼻についた。