透流だった。
出るのが少し怖かったけれど、話すことは沢山ある。
私はすぐに扉を開け、透流はいつものヘニャリとした顔で笑った。
フルーツサンドのゴミをまだ捨てていなかったけれど、私の部屋に通した。
「ちぃちゃん。お父さんと薫子さん、結婚するんだね」
インフルエンザのときから私のベッド横には椅子が置いてある。
いつものように私はベッドに座り、透流は椅子に座る。
「うん。ねえ、透流」
「ん?」
「これからどうしようか」
酷い質問だと思った。
案の定、透流はどうしようねえ、と困ったように呟いた。
「これは、明日から二人の秘密にしよう」
透流が言い出したことに、私は俯いていた顔を上げざるを得なかった。
「無かったことにするの?」
「そう。明日から、ちぃちゃんと俺はね。仲の良い幼馴染みで、姉弟だよ。ただちょっとお互いに依存気味だった姉弟」
姉弟、という言葉でこれまでを無くしてしまえるなんて。
なんて暴力的で、残酷で、優しい言葉なんだろう。
他人という言葉より優しくて、温かくて、残酷だ。
いつの間にか私の頬を涙が滑っていた。
制服を着たまま、さっきまで笑みさえ浮かべていた姿のまま、私は泣いていた。
見ると、透流も泣いていた。
ヘニャヘニャの笑顔で、泣いていた。
「明日からなんでしょ」
私はそれに笑い返す。
「そう。明日から」
「じゃあさ、透流」
透流の制服を着た腕を引っ張る。
二人ぶんの体重で、ベッドがギシリと鳴った。


