【短編】朝焼けホイップ



 「……再婚?」


高二の秋、私はお母さんの言葉に驚いて一切の声を失った。

横で姉がわーすごいじゃんおめでとー、などと言っているのが聞こえた。


でも私はおめでとうなんて言えなかった。

どうしておめでとうなんて言えただろう。


透流のお父さんと、再婚だなんて。


どうして、私が喜ぶことが出来ただろう。


もっと、お母さんに透流とのことを話していたら良かったかもしれない。

もしくは姉に話していたら、もっと彼女が気を配ってくれたかもしれない。


それでも、そのときにはもう後の祭りだった。

無駄な後悔だともわかっていた。

お母さんは母子家庭で育つ私たちのために、必死で働く仕事人間だったし、それゆえに会話も少なかった。

姉はふらふらしていて頼りないと思っていたから、あえて言うことでもないと思っていた。

だって、何も困ることなんてないと思っていた。


こんな形で障害が現れるなんて、こんな誰にも覆せない形で現れるなんて、思わなかったから。


それにきっと、同じような父子家庭の透流もきっと。

おめでとう、と言うんだろう。

だから私は、おめでとうと言わなくてはならない。


お母さんのためだ、なんて自分を誤魔化して。

自分の気持ちに蓋をして。

綺麗な笑顔で。


「……おめでとう、お母さん」


そう言ったのだ。