【短編】朝焼けホイップ

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 昔、私たちは恋人同士だった。


 透流と出会ったのは、小学三年生の頃だった。

大学生になってから聞く小三などという響きは、少し気恥ずかしいものがある。

転校してきた透流は家が近くて、甘ったれだった。

学区ギリギリの住宅地だったので、周りに私以外に同級生はおろか同じ学校の人さえ居なかった。

頼れる人はうちだけ、ということで家族ぐるみの付き合いが始まり、年が近い私はよく面倒を見たものだ。

姉はその頃からふらふらしていたし、しっかり者とは胸を張って言えないが私は姉よりきちんとしていると自負していたのだ。


私と透流の関係性が変わったのは、透流が中三の頃だった。

私は高一で、お互いに意識しあっていた。

相変わらず面倒は見ていたけれど、以前のように部屋に入り浸ることはなく入ったとしても気を遣ってばかりいた。


本格的に恋人になったのは、バレンタインの日だ。

いわゆる逆チョコというものなのだろうが、そのとき私は男の子に告白されていた。

どきどきはしたし、初めてのことだったので顔も赤かったかもしれない。

寒空の下で受け取ったチョコレートは私の手にはずいぶん重く感じた。


透流はそこに乱入してきた。

物も言わず私の腕を引っ張り、私を家に送り届けた。

その日は全くもって会話もせず、私は透流に勘違いされたかもしれないと焦りを感じていた。


明日、誤解を解こうと念じて眠った。