【短編】朝焼けホイップ



今日そういう顔を見るのは二回目だった。


彼と、透流。



「ちぃちゃん今、すごく女って顔をしてたよ」


「そう。ふられたからじゃない?」


また、傷ついた顔をする。

悲しげに憂いを帯びた目を。


「悲しい?」


また無神経な言葉を、透流は投げかける。

けれど私はすぐに答えることができない。


恋人にふられて悲しくないはずがないのに、なぜだか何の感情も湧いてこない。

透流のせいだ、と理不尽にも思う。


「わからない」


私の声が広いリビングに虚しく響いた。

あるいは、私の声そのものが虚しい響きがあったのかもしれない。


「透流は何で帰ってきたの?」


透流の横に座り、チョコレートを食べる。

お茶とチョコレートは合わないな、と思った。


脈絡のない質問に透流は驚いたようだった。

ぽんとチョコレートを口に入れながら、横に座った私を見ている。


「そりゃ、ちぃちゃんが帰ってきてたから」


「お酒と猫が好きな女のひとは良かったの?」


「知ってるでしょ、別にそういうんじゃないって」


「じゃあどういうの?」


思わず刺々しくなった私の声に、透流は少し間を置いて答える。


支援者、だよ。


最低な男だと思う。

だってきっと、お酒と猫が好きな女のひとも前に言っていたクッキーと観葉植物が好きな女のひとも、透流のことが好きに決まっているのに。


家に泊まって、“愛し合って”、優しくして。

それでも透流はその人たちが好きではないのだ。