「あの…、斬られた男性は結構血が出てましたよね。もしかして…手術…とかが必要なんですか?」
おずおずとそう尋ねると、ルタさんは、ふっ、と真剣な表情を浮かべて答えた。
「いや。むしろその逆。」
「逆…?」
彼は、パラパラとカルテをめくりながら低く続ける。
「あの出血量にしては傷が小さすぎる。それに、裂傷は一箇所だけなのに服がやけにボロボロだった。…まるで…」
(まるで……?)
と、私が首を傾げた、その時だった。
…ギシ…
診察室の奥のベッドが軋む音が聞こえた。
カーテンで仕切られ、影だけが見える空間から、男性の声が聞こえる。
「すみません…、先生はいらっしゃるか…?」
しぃん、とした診察室に、弱々しい声が響く。
やけにはっきりと聞こえた声に、私はどきり、とした。
どうやら、ちょうど噂をしていた被害者の男性が意識を取り戻したようだ。
「あんた、まだ寝てなくちゃダメだよ。勝手に起き上がろうとしないで。」
ギシギシと軋むベッドの音に、ルタさんが怪訝そうに眉をひそめた。
カーテンに映る男性の影は、むくりと起き上がっている。
(体はもう動かせるんだ…?あんなにひどい怪我をしていたのに…ルタさんの処置が早かったからかな…?)



