イヴァンが「ランバート、ランバートー!」とまるで飼い犬を呼ぶように声をあげた、次の瞬間だった。
突然、町の人々がざわざわと騒ぎ始めた。
皆、隣の路地へと向かっていく。
「どうしたんだろう?」
私がイヴァンさんと顔を見合わせていると、町の人たちの話し声が聞こえてきた。
「おい!また出たらしいぞ、人斬りが!」
「どうやら、角の家の主人が斬られたらしい!」
物騒な言葉にぞくり、と背筋が震えた瞬間
唖然とする言葉が耳に届いた。
「犯人は、今どこに?!」
「それが、今、“大剣を持った兄ちゃん”とやり合ってるらしいぞ!」
(っ!な…っ!)
その瞬間。
私は、隣のスーツの男が機嫌を損ねた空気を察した。
「…“大剣を持った兄ちゃん”だと…?」
静かに聞こえたイヴァンさんの声は、ドスがきいている。
見なくても、どんな表情をしているのかがありありと想像ついた。
ゆらりと一歩踏み出したイヴァンさんは目が据わっている。
「ったく!トラブルしか起こせないのか、あの男は!」
イヴァンさんは、素早く魔法陣を広げた。
そこから、バチバチと電気が放たれ、黒々とした拳銃が現れる。
しっかりと“高圧電流銃(スタンガン)”を握りしめたイヴァンさんは、スーツを翻しながら私に叫んだ。
「行くぞ、ノア。あの馬鹿を放っとくと器物破損でいくら請求書がくるか分からねぇ!」
「う、うん!」
私は、スーツケースを引くイヴァンさんに続いて人々が集まる路地へと駆け出したのだった。



