どことなく色気のある笑みが見えた。
その表情には、見覚えがある。
私がダーナの家に行って交渉するのを渋っていた時。
もし町を出ることが許可されても行くあてなどないし、監禁されるかもと言い訳をした時。
“そん時は、俺がさらってあげるよ。”
そう言って笑った記憶の中のランバートと目の前の彼の姿が重なった。
ざわざわと、春の夜風が吹き込む。
いつの間にか雨雲は晴れ、淡い光を放つ月が闇に包まれた空に静かに輝く。
夜の世界の中に、大剣を背負った魔法使いの彼がはっきりと見えた。
彼の手のひらが、すっ、と目の前に差し出される。
ランバートは、視線を逸らさずに凛として艶やかに私を誘った。
「ノアちゃん、おいで。
───俺が君をさらってあげる。」
…どくん!
感じたこともない熱が体に灯った。
まるで、新しい本の表紙をめくる時のような…何年も感じていなかった懐かしい感情が身体中を駆け巡る。
「…いいの…?」
「うん。…あと5秒の間に手を取らないと時間切れだけど。」
「えっ!!」



