しぃん。
静まり返る部屋。
そこに響くのは、時計の針の音だけ。
その音がうるさく感じるほど、他の音は何一つ聞こえなかった。
「…話というのはそれのことか…。」
沈黙を破ったのは、ダーナさんだった。
緊張が張り詰める中、彼は私をいつもの笑みで見つめながら続ける。
「それはダメだとずっと言い聞かせて来たじゃないか。何故、今さらそんなことを?歳を重ねて反抗期でも来たのかい?」
諭すような口調とは裏腹に、その瞳は笑っていない。
ランバートも、黙って私たちの会話を聞いている。
「私をここまで育ててくれたダーナさんにはとても感謝しています。ですが…ずっとこの町にいるのは、正直私にとって耐え難いのです。」
「この町を出ても大して変わらない世界しか待っていないだろう。魔力を持たない君を歓迎する者なんて、いるはずがない。むしろ、皆、この町の町民たちのように君を忌み嫌うに決まってる。」
ダーナさんの回答は、もっともだった。
確かに、現状が変わることなんてないかもしれない。
どこへ行っても、魔力を持たないと知られた瞬間、手のひら返しで冷たい態度を取られるかもしれない。
傷つくだけかもしれない。
…でも。



