♪〜♫♪〜♩〜♬
流れるように音を紡ぐ。
リストにない即興のアレンジは、かつて教会で耳にしていた思い出の曲だ。
クリスマスにしか聞けない、子どもも大人も一度は聞いたことのあるピアノ曲。
♪〜♫♪〜♩〜♬
感覚で覚えたそのリズムは、薄暗い視界をカバーするように指を動かしていく。
その時、胸元の通信機から聞き慣れた黒いスーツの彼の声がした。
『あと10秒持たせろ。』
殺し屋のようなイヴァンの声に、頭の中でカウントダウンが始まる。
10秒、時計の針が時を刻むと同時に、最後の音を弾きおわる。
すると、次の瞬間だった。
パァァッ!!
レストランの大きな窓の外に見える、街の広場に飾られたクリスマスツリーが、一斉に明かりを灯した。
粉雪とともにキラキラと輝き出すイルミネーション。
広場の中心部だけが色とりどりにライトアップされる景色は、幻想的で、誰もが言葉を失って見惚れた。
そして微かに感じる、黒いスーツの彼の魔力。
「…すごい…綺麗…。」
ピア二ストの彼女がぽつり、と呟いた瞬間
ぱっ、と店内の明かりがついた。
(やっとロルフの復旧が終わったみたいだな。)
そっ、と窓際の席に視線を移すと、ランバートとノアは幸せそうに笑っていた。
俺は、そっと席を立ち、ピアニストの彼女に声をかける。
「今日の俺の仕事はここまで。ここからは、今日のために練習してきた、あんたの曲をお客たちに届けてあげて。」
「!」
「わがまま聞いてくれてありがとう。じゃあ、素敵なクリスマスを。」
きゅっ、と俺の着ていたジャケットを羽織りなおした彼女は、優しい笑みで頷いた。
『おい。10分以内にエーテル用応接室集合な。』
通信機から聞こえるイヴァンの声に小さく返事をして、俺は恋人たちが過ごすレストランを後にしたのだった。
《ルタside*終》



