(いちお本物だけど、仕事は嘘だよ。ごめんね。)
ばさり、とコートを脱いで腕にかけた俺は、もともとピアニストとして呼ばれていたらしきドレスの女性に視線を移す。
(…こういう、あの“女好きの問題児”みたいなやり方は気に入らないけど…)
コツコツと歩み寄ると、彼女の綺麗にメイクされた頰が赤く染まっていく。
俺は、自分を見上げる彼女の瞳をまっすぐ見つめ返し、出来る限り優しく囁いた。
「急でごめん。サプライズなんだ。クリスマスのね。」
「!」
彼女の瞳が見開かれる。
隙をつくように彼女の手を取り、優しく引き寄せた。
「今日の演目を聞いてもいい?クラシック?ジャズ?どれだって、俺はあんたに合わせるよ。速さも、呼吸も、指の動きも…全部。」
きゅ…、と指を絡めると、彼女がぴくり、と肩を震わせた。
「…どう?俺と一緒に弾く?」
「っは、…はぃ……っ!」
(これで、よし。)
ちらり、とレストランのエレベーターの方を見ると、ちょうどランバートとノアが到着したようだ。
「ん、行こうか。スーツとかある?」
「はい…っ!ご用意します…!!」
俺はピアニストの彼女を連れて、ランバート達の視界から外れるように店の奥へと入っていった。
ここから、“非番返上のデートフォロー作戦”の後半戦が始まったのだ。



