ふいに呼び止められ、私たちは振り返る。

すると彼らは、同時に指で自らの唇をトントン、と指した。

その合図に、?マークを浮かべる私とランバート。

保護者組は、小さく息を吐いて呟いた。


「王に会いに行く前に身だしなみを整えた方がいいな。それじゃあ、“何してたのか”バレバレだ。」


「ロルフが酒で潰れててよかったね。あいつがいたら、絶対からかわれてたよ。」


とっさにお互いの顔を見つめる私たち。

ランバートの形のいい唇に、私の口紅が色づいている。


「…ノアちゃん、口紅よれてる。」


「っ!」


こっそりと囁かれたセリフに、体の芯から熱が灯った。

保護者組といえば、何事もなかった顔をしてグラスに注がれたお酒を飲んでいる。


(は、恥ずかしい…っ!)


“キスをしていた”ことを察したような彼らは、どこか安心したような目配せを交わしていた。

なんだか見守られていたような感じがしてこそばゆい。


「全然気がつかなかったね。…王に見せつけてやろうか?」


「ば、ばかっ!早く拭いてっ!」


よれた口紅をナプキンでふき取ると、ランバートはくすりと笑って、くいっ、と唇を指で拭った。


「じゃ、行こっかノアちゃん。」


差し出された手に、どきん、と胸が鳴る。

握り返すと伝わってくる彼の体温。

ほっ、と心が落ちついた。


きっと、私はずっと、この人に愛想をつかされない限り、ランバートの隣に居続けるのだろう。

もう、この手は離さないと決めた。

攻撃魔法が使えない大剣のエーテルは、私たちを結びつけたあの本のように

“姫”を監獄から連れ出した

たった1人の“騎士”なのだから。


第5章*終