私は、にこりと笑うロルフと女性たちにお礼を言って駆け出した。
ガチャ…!
豪華な装飾のされた大きな扉を開け、廊下を進む。
コツコツコツ、とヒールの音が響いた。
(ランバートってば、どこに行ったんだろう?もしかして、どこかの客室に入ったのかな?)
ドアがずらりと並ぶ廊下をきょろきょろしていると、ふと、突き当たりの角を曲がる人影が見えた。
さらりとしたミルクティー色の髪がなびく。
「!ランバート!!」
私は呼び止めるように彼の名を呼んだ。
しかし、聞こえていないのかその影は視界から消えていく。
コツコツコツ…!
ドレスの裾を持ちながら彼を追いかける。
(確か、この角を曲がっていったはず…!)
廊下の右手に伸びる角を勢いよく曲がった
その時だった。
「!」
視界に、漆黒の髪の男性が現れる。
「きゃっ?!」
「っ!ノア?!」
ぶつかりそうになり慌てて避けると、漆黒の髪の男性の腕が、さっ、と私の体を支えた。
琥珀色の瞳が私を映す。
「どうしたんだ、危ないだろ。そんな靴で走ったら転ぶぞ。」
「イヴァンさん…!」
彼から微かに香るのは、大人な香り。
どうやら、パーティから抜けてタバコを吸っていたようだ。
私はそんなイヴァンさんに急いで尋ねる。
「あの、ランバートを見なかった?」
すると、イヴァンさんはすっ、と先にある階段を指して口を開いた。
「あー。ランバートなら、さっき甲板で会ったぞ。まだ上にいると思うが……」
「!わかった!ありがとう…!」
私は、見慣れない白軍服のイヴァンさんに頭を下げて走り出した。
甲板へと続く階段を一気に駆け上がる。
…キィ…!
階段の上の扉を開けた瞬間。
ふわっ!と風に乗って海の香りがした。
…ザザザ…
夜の闇に染まった真っ黒な海。
白い波を立てて進む船。
月明かりに照らされた甲板には誰もいない。
(…?あれ…?)



