(ランバートは、カイさんを殺さなかったんだ…)


ほっ、と体の力が抜ける。

もし、ランバートが本当に王の命に従って斬っていたとしたら、きっと、ランバートの心には深い傷が残っていたはずだ。


(…よかった)


私は、イヴァンさんとルタに向かって早口で尋ねる。


「あの、ランバートは?大丈夫なの?」


その瞬間。

イヴァンさんは、ふっと顔を曇らせた。


(え…?)


ざわっ、と嫌な胸騒ぎがした時。

イヴァンさんが私に向かって低く答えた。


「ランバートはここにはいない。1人、離島に残ってる。」


「!!」


すると、ルタが険しい顔をして口を開く。


「ここで悠長に再会に浸っている場合じゃないよ。ランバートは、傷が開いた状態で幻夢石の魔法陣を砕くつもりなんだ。早く包帯を準備して離島に戻らないと…!」


どくん…!


( 傷が、開いた…?)


脳裏に、血で染まった雪原が蘇った。

ぞくりと体が震え、離島を覆い尽くす曇天が、実際は幻夢石の霧であることに気づく。

その時。

ババ様が教会からカタカタと車椅子のままこちらに向かってきた。


「おぉ!帰ってきたか!そんな険しい顔をして、一体どうしたんじゃ?」


ルタがそんなババ様を見てぽつり、と呟く。


「…そうだ!ババ様の治癒魔法なら、ランバートの傷を治せるかもしれない…!」


(!)


はっ!とした様子のイヴァンさん。

だが、すぐに険しい顔へと戻ったスーツの彼はルタに向かって低く言った。


「いや。いくらババ様とはいえ、車椅子の状態で幻夢石の霧の中へ向かうのは危険だろ。誰かが背負えば話は別だが…」