幻夢石の霧に向かって駆け出すランバート。

その背中を追うことはできない。


「く、そ…!」


イヴァンが、低く声を漏らした。


(持ってきておいた救急箱はパトカーの中だ。だけど、きっと影に荒らされたせいで使い物にならない。…教会に取りに戻って、急いでここに駆けつけたとして、ランバートの傷は応急処置で間に合うのか…?)


と、俺が思考を巡らせていたその時だった。


「…おい。」


意思を宿した澄んだ声が耳に届いた。

その声の主は、赤いフードを取り、瑠璃色の瞳でこちらを見つめるフォーゼルである。


「あの団長が死ねば、ノアさんはどうなる。」


(…!)


切迫した問いに、緊張感が走る。

イヴァンが、フォーゼルを見つめて低く答えた。


「泣くどころじゃすまないだろうな。」


「…!」


顔を伏せたフォーゼルは、小さく呼吸をした。


ばさり…!


フォーゼルが赤いマントを脱ぎ捨てる。

俺とイヴァンが目を見開いた瞬間。

指輪を強く光らせた彼は、瑠璃色の瞳をまっすぐこちらに向けて口を開いた。


「俺をあんたらのパトカーまで案内しろ。」


《ルタside*終》