「なんて顔をしてるんだ。」
静寂が、途切れた。
空気が、まるで石が投げ込まれた水面ように、波打つ。
…コツ。
イヴァンさんは、私の目の前に来て立ち止まった。
顔を見れない。体が動かない。
…ぽん。
「…!」
その時、頭上に温かな手の感触がした。
「…偉いな、あんたは。」
くしゃくしゃ、と撫でる手付きは、大人の男の人で。
その仕草は、驚くほど優しくて。
髪が乱れることなんて、少しも気にならなかった。
「………。」
やがて、イヴァンさんの手が離れた。
何も言えずに顔を上げると、軽蔑も差別もしていない琥珀の瞳が私をまっすぐ見つめていた。
「…なぁ。ここに泊まる宿代のことなんだが…変えてもいいか。」
「え…?」
イヴァンさんは視線を逸らさずに、思いもよらない言葉を続けた。
「俺とランバートが外の世界の旅の話をする、ということだったが…あんたの話も聞かせてくれないか。あんたが見てきた世界とか、将来の夢の話とかをな。」



