ロルフは、大きく目を見開いた。

私は、気が動転して早口で続ける。


「こんな所で待ってる場合じゃないわ!早くランバートを見つけないと、手遅れになるかもしれない!」


(もし、ランバートが二度と私の前に現れなかったら…、もし、ランバートがこの世からいなくなったら…!)


と、次の瞬間。

ロルフが、トン!と私の肩に手を置いた。


「ノア、落ち着け!」


「…!」


薔薇色の瞳がまっすぐに私をとらえる。

余裕をなくした私の顔が彼の瞳に映った。


「俺も、今すぐにでもあいつを探しに行きたい。…だがな、あいつは言ったんだ。“宿屋に行け”、“本部に近づくな”、って。」


(…!)


ロルフの葛藤するような声が私に届く。


「あれは“団長命令”なんだ。ノアもエーテルと行動を共にしている以上、従わなけりゃならねぇ。イヴァンも、ルタもそうだ。あいつらだって、今すぐにでもランバートを追いかけたい気持ちを抑えて部屋にいる。」


…ふっ。


体の力が抜けて行く気がした。

諭すように言い聞かせるロルフの口調に、だんだんと気持ちが落ち着いていく。

すっ、と私から手を離した彼は、強い意志を宿した瞳で言い切った。


「…俺は、ランバートを信じて待つ。さっきも言ったが、ウチの団長は仕事ができるからな。部下を残して勝手にいなくなる奴じゃねぇよ。」


ぽん、と優しげな手のひらが私の頭を撫でた。


「悪かったな、不安にさせるようなことを言って。」


軽く私の髪の毛をといたロルフの指は、温かさを残して離れていく。


「…大丈夫だ。ノアは安心して部屋に戻ってろ。ランバートが帰ってきたら、1番にお前の部屋に行くよう伝えてやるからよ。」


(…!)


「…うん。わかった。」


私は、小さくそう答えることしか出来なかった。

月明かりが、窓から私達を照らしていた。