私に爪が突き立てられる、その間際。
突然、フォーゼルの指にはめられた指輪が鈍く光った。
その光に共鳴するように、私に襲いかかる爪がぐにゃり、と歪んでいく。
「っ、な、何だ?魔力が消えていく…?!」
フォーゼルすら、何が起こったのか分からないようだ。
「まさか…あんたが………」
フォーゼルが何かを言いかけた瞬間。
ドォン!と、診療所の扉が蹴破られた。
はっ!と、音のした方へ顔を向けたその時。
見慣れた大剣が視界に映る。
(あれは…!)
「ノアちゃん!伏せて!」
凛とした声が響き、薄手のコートを羽織った青年がタン!と地面を蹴る。
「ぐっ…!」
キレのある足蹴りが、フォーゼルの胴へ綺麗に決まった。
勢いよく蹴り飛ばされたフォーゼルは、ドォン!と壁へ体を打ち付けられる。
彼は、咄嗟に影をクッションのようにすることで衝撃を抑えたようだが、立ち上がる余裕はない。
ズズ…、と床に沈む一派の幹部は、ふっと魔力を消した。
砂埃が舞う中、目の前に見えたのは、体に不釣り合いな大剣を背負った青年の背中。
ミルクティー色の髪が、攻撃の衝撃波でなびいている。
「ランバート……!」
掠れる声で彼の名を口にすると、翡翠色の瞳が私をとらえた。
「ごめんね遅くなって。もう大丈夫だよ、ノアちゃん」



