「わぁー眠い眠い眠い!!!」

「うるさいわよ。もう家は目の前な

んだから、少し位我慢しなさいよ。」

唯は本当は昨晩、早めに寝ようと、

心がけて、11時にはベッドに寝そべっ

ていた。しかし、スマホに目を向けた

瞬間、とある通知を見つけてしまった。


「青神ユオ’s NIGHT~朝まで語り合

いましょう!~」


唯が大好きな女性シンガーソングラ

イターの、生放送配信の知らせだった。

そんな時、彼女が行う行動といえばた

だ1つ。

そう、生放送を朝まで見ること。


「おかげで今、学校の帰りまでそん

な状態なわけね。でも、もう帰ったら、

うんと寝れるんだから!そんなグダグ

ダしないのよ。明日は土曜だし、休み

じゃない。うんと寝れるわ。」

「そーだね。てか、なんか華恋って

世話焼きだよね。いっつも私、華恋に

気にかけてもらってる気がするもん。

なんか申し訳なくなっちゃうなー。」

「それなら少しは気にかけられない

ような強い女になりなさいよ。」

「そうだねー頑張るよ。」

二人の会話はいつもこんな様子だ。

無言なわけでもなく、また、特別盛り

上がるわけでもなかった。

でも、互いにこのなんともいえない

空気が嫌いではなかった。

だが、そんな不思議な空気を遮るよ

に、大きく、スマホのバイブ音が鳴り出

した。




・・・・ピピッピピッピピッ・・・・


唯はふと立ち止まり、スマホを取り

出す。車が来ると危ないので、電柱

の脇にそれた。華恋も後ろについて

いく。


「ん、何?母さん、だからいつも言っ

てるでしょ。今日は家に帰らない日

なの!華恋の家に泊まるから。いち

いち分かってんのに電話なんてかけ

てこないでよ!」


唯はそう言い放ち、いい加減に通

話を切る。

彼女はそこで、大きなため息をつ

いた。


「ゆ、唯。あんなこと言って本当

に大丈夫なの?お母さん、とても心

配してたじゃない。やっぱり帰るべ

きじゃあ・・・」

「そんなこと言わないで。私はあ

んな場所になんて帰りたくないの。

本当は平日にだっていたくない。

月曜から金曜まであんな家にいるな

んて地獄なのよ?分かる?」

「で、でも・・・・」

「いいから。それとも今日は迷惑

だった?家の都合的にだめなの?」

唯は、悲しんでいるような、でも

怒りの爆発を耐えかねているような、

そんなオーラを出していた。

「いえ、そういう訳ではないわ。

うちの親は唯ちゃんならいつでも大

歓迎なんて言っていたぐらいだし。」

「じゃあいいじゃん。決まりね。」

唯はさっきまで、とても怒りに満

ち溢れた表情を浮かべていたが、

それはもう過ぎ去っていた。

いつものように、ふわふわとした

柔らかい表情を浮かべている。



華恋は、唯と自分はわりと親しい

間柄だと感じていた。しかし、家族

の話となると、全く口出せなかった。

唯が本来見せることなどない、とて

も暗い陰が、ずっと後ろにくっ付い

ているように見えるからだ。