そういえば雨谷先輩は先輩のことを「怖い」とか思わなかったのだろうか。
それに怖がられて避けられているような不良の先輩と仲良くなんてしていたら悪い印象がついてしまう、なんてこともありそうなのに。
もしかして、先輩の噂を知らないとか?
あまり学校に来られていないらしいし、その可能性はある。
「雨谷先輩は先輩のことが怖いとか思わないんですか?」
「ん?」
私の言った意味がよく理解できなかったのか、固まると目をパチパチと何度か瞬きをさせる。
暫くするとぽんっと手を打ち、理解したようで「そういうことか」と声を漏らした。
「もしかして不良とかそういう噂のこと?」
「はい」
あまり学校に来ていない雨谷先輩さえも先輩の噂を知っているとは…。
噂というものは怖い。
「まぁ正直、初見はちょっと怖かったけど、今は全く怖くないな。逆にはるは優しいと思うぐらい」
「優しい…」
「うんうん。あと、面白くていい奴だよな。翼もそう思わないか?」
「私は……」
見た目はまんま不良だし、たまに傷やあざがあったりする。
でも先輩を怖いと思ったことはない。
噂話は大半は嘘だと思うくらい。
あの口調のせいか、話せば更に怖さなんてものはなくなる。
目が合うとにこにこ笑って駆け寄って来たり、つい返事をしてしまうと嬉しそうにしたり。
…変な人だ。

