耀先輩は、手を振って私の名前を呼ぶ。


「ほんとは迎えに行きたかったんだけど、ごめんな」

「いえ。大丈夫ですよ」

「あ、えーっと、翼の友達だよな?」

「はい」


私の返事に笑って答え、隣で固まっているりりなと香澄に顔を向けた。

片手を出し、テレビで見るようなキラキラ笑顔を見せる。


「初めまして、雨谷耀です。急だったのに今日は遊びに来てくれてありがとな」


耀先輩の言葉に続く返事をすることも、差し出された手を握り返す事も、笑顔に応えることもしない2人。

驚きと戸惑いの顔で耀先輩を見たまま固まっているだけだ。


「あー……えーっと…?」

「りりな、香澄。大丈夫?」

「えっ!?え、ええっと、内田りりなですっ!」

「私は北里香澄と申しますわ…」

「りりなと香澄な。俺のことは気軽に耀って呼んで……っと。ちょっと待ってて…もしもし?」


耀先輩の電話が鳴り、話をしながらこの場を離れて行く。

その後ろ姿を見ていると、急に目の前にりりなと香澄の顔が映った。


「ちょ、ちょっと翼ちゃん!?どういうことなの!?」

「雨谷耀ってあのっ…Octet Rainの雨谷耀ですわよね!?」


ぐいぐい詰め寄って来る。

そして小声ながらもなんだか凄く圧を感じる。

こんな反応をするとまでは想像していなかった。

誘ってくれた友達が耀先輩だということを先に言っておいたほうが良かったかも。

一緒に部活をやっていることは内緒にと先生に言われているため、その部分はなんとか誤魔化しつつ説明した。


「翼の説明ではあまり納得がいかないところがありますが…まぁ、今回は大人しく頷きますわ」

「とりあえずりりな達はどう接すればいいの!?」

「どうって言われても…」


説明したところで、やはり戸惑いはまだ消えないらしい。

普段、テレビの中で見ている人が突然身近になるのはすぐには受け入れられない、か。

りりなと香澄はOctet Rainのファンでもあるし、更に難しいだろう。