「とにかく来たらわかる」ということと急いでいる様子だったことから、仕方なく俺と悠は奏十について行った。

宮井はというと他の依頼者が来るかもしれないと1人部室に残った。

奏十の後を追い、着いた場所は生徒会室。

寒い廊下から暖かい室内に入れると思ったのだが、入っても温度はたいして変わらなかった。


「おかえり奏十。ピンチヒッターは?」

「連れて来たぜ」


待ってましたと言わんばかりの笑顔で迎えたのは寒川 央(カンガワ アキラ)。

生徒会副会長。大体笑顔でいるが、ただの腹黒人間だ。

そして央の弟で会計の寒川 千尋(カンガワ チヒロ)と今年度からできた特別会長の香月 ゆい(カツキ ユイ)はいるが、真ん中にある椅子には仁の姿はない。

代わりにと言ってはなんだが大量の段ボールが生徒会室にはあった。

その光景を見て、つい数ヶ月程前のことを思いだす。

静音の代わりに俺が仁に生徒会室へと連行され、修学旅行の準備を手伝わされた。

あの日は4時間程色んな作業をやらされたものだ。

まさかまた同じようなことをやらされるんじゃ…。

一歩後ずさろうとしていると、央は立ち上がって段ボールを抱えた。

そして自分が座っていた目の前にある机にどんと置き、向かい側のソファを指さす。


「柊也、悠くん。そこに座って食べて」

「食べて…ですか?」

「そういやこの匂い……」


俺と悠はソファに座り、央が置いた段ボールの蓋を開ける。

するとそこには小箱や袋がたくさん入っていた。

段ボールの中にある赤いリボンが結ばれた透明の袋から中身が見える。

チョコだ。

匂いからしてこれ以外の小箱や袋に入っているものも全てチョコなのだろう。

ようやく俺が呼ばれた理由とこの状況が理解出来たが、悠はまだわかっていない様子で1つ手に取る。


「えーっと…これチョコですよね?どうしたんですかこんな大量に」

「バレンタインのチョコだよ」

「あぁ……ってえ?バレンタインって明日ですよね?」

「一般的にはな。だけど、仁は別。あいつは2月中ずっとバレンタインって言っても過言ではない」


奏十の説明通り。

仁のバレンタインはデーではなく、ウィーク。なんならマンスでもある。

俺も去年この状況を初めて見たのだが、これが毎年恒例らしい。

どう思っても1人で食べきれる量ではない。

だから去年もこうして食べるのを俺も手伝ったものだ。