家に帰り、2階の部屋に鞄を置いてリビングへとやってきた。
お母さんはまだ帰って来ていなく、夕飯の支度をしている凪さんの後ろ姿が見える。
「ねぇ、凪さん。ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「お話ですか?少々お待ちを」
「あっ!作りながら聞いてもらって大丈夫だから」
「左様でございますか。静音様がこのまま聞いてよいと言うのであれば私は大丈夫ですよ」
一度手を止めたが、再び支度を始める。
もしも凪さんがいつきくんに会うことを断れば一くんのサプライズ作戦はここで終わりだ。
妙なプレッシャーを感じながら一度、深呼吸。
「実は今日、凪さんが昔、一くん達の住んでいたところで働いてたって聞いて」
「……はい、そうですよ」
「えっと…それでね、いつきくんが凪さんに会いたいって言ってて…それで会ってくれるかなーって」
「いつき様が…ですか」
「うん。どうかな?」
凪さんの返事はなく、包丁で野菜を切る音だけが聞こえる。
私は返事が来るのを待つために黙ったまま。
凪さんが返事に時間がかかることは滅多にない。
会うか、会わないか。
この2つの選択肢で凪さんが迷うということは凪さんにとって大きな問題があるのかもしれない。
包丁を動かす手が止まり、此方を向かないまま凪さんは答えた。
「…私は、いつき様とはお会いすることはできません。もちろん、一様ともです」
「そっ…か…。それってもしかして何か会えない理由があるの?」
「そうですね…会えない、という言い方は間違いでした。お会いする資格がないのです」
「会えない」わけではなく、「会う資格がない」…。
一体、どういうことなんだろう。

