夏美へ

この手紙が読まれている、その手に渡ったという事はきっと今貴方の周りは騒がしい事でしょう。

貴方の存在に貴方の父親が気付いたならば、きっと近いうちに夏美が望む、望まざるに関わらず彼は夏美に会いに来ます。


そこで夏美が何も知らないのは不公平かと思うので、ここに私が貴方に伝えられる全てを記しておきます。


貴方の父親の名前はエドワード・スチュアートというイギリス人留学生でした。
お付き合いするようになり話を聞けば、イギリスに古くからある貴族の出身なのだと。

あまりの、身分の違いに私はお付き合いはするものの両親も居ない私では釣り合わないと悩み始めました。

そんな時です、貴方が出来たことが分かりました。

一人きりになっていた私に出来た夏美の存在はどれほど嬉しかったか…。
それは、言い表せない程のものだったわ。
それと同時に悩んだのはエドワードとの事でした。
彼はもう次の春にはイギリスに戻り、お父さんの会社に入る事が決まっていました。
帰国が決まっているエドに私はこの事を伝えるか、伝えないのか悩み続けました。
そして、伝える事を諦め一人で産み育てることを決めて大学も退学手続きをとり、東京から離れた地方に住む場所を手配して、年末に一時帰国するエドを見送って。
それから、彼の前から姿を消して、離れました。

大学には特に親しい友人も居らず、ましてや元々が孤児故に親戚も居らず、私を探す伝手はほとんど無かったでしょう。

そうしてまずは四国に行ったのですが、そこの病院で私の心臓が出産に耐えられるか分からないと言われ、産むのならそれなりの設備のある都会が良いと言われました。
産後予断を許さぬ状況に陥る事もあるだろうから、頼れる先で産む事を進められた時私は目の前が暗くなる思いにとらわれたわ。

頼る先なんて無かったのに。
それでも無事に産みたい、大好きな人との子である夏美に会いたい。

その意志だけは揺らがなくて、エドワードが日本を離れた頃に最後に頼ったのは卒園した養護施設でした。

楓シスターに頼り、長野の設備の整った大きな総合病院で夏美は元気に産まれたの。
私に似ずに丈夫な心臓を持って。
とても嬉しかった。