久しぶりに入る園長室は昔と変わらない。

変わるのは増えていく写真だけだ。
毎年撮る園での集合写真。
子どもはすぐ巣立つから、私の為の写真撮影なのよ。
そうよく言っていて、その言葉通り撮った写真は必ずこの部屋に飾られている。


「さぁ、お座りなさいな。それで聞きたいことは?」


「お母さんは先生に何か残してませんか?最近父親と名乗る人物が私を探してるらしくて。父について母は私に何か残していませんか?」


そう用件をストレートに伝えた。


「麗蘭さんが予測していた通りね。せっかく二人で画策して苗字も麗蘭さんの田中でなく、私の三郷にしておいても探し当ててきたという事ね…」

ふぅとため息をつくものの、先生は少し楽しそう。


「そうですね。今一緒に暮らしてる人達がどうやら父と繋がりがあったみたいで…。世間って狭いですよね」

そう伝えると、先生は目を見開きつつも微笑んで言う。

「あらあら、やっぱり親子の縁って言うのは切れないものなのねぇ。麗蘭さんに頼まれて、引き受けてやってきたけれど、ここが潮時という事かしらね…」


そう言うと立ち上がり応接ソファーから、先生は机に行くと、引き出しを開けて1通の手紙を取り出してきた。


「時が来たということでしょう。これは麗蘭さんから夏美ちゃんあなたへの手紙です。もしも父親の事で成人後にここを尋ねることがあれば、渡してほしいと頼まれていました」

「成人後に限定していたんですか?」

「えぇ、麗蘭さんはそう言っていました。麗蘭さんはあの歳の子としては、達観していたところのある子でしたから。先を見越す事もあったのでしょうね」


そう穏やかに話す園長先生に、私は常々思っていた事を聞いてみた。


「母はそんな感じだったんですね。因みに母は幾つで私を産んだんでしょう?」


「そう言えば話してなかったわね。私と麗蘭さんもこの施設出身なのよ。麗蘭さんは両親を事故で亡くして十五歳でここに来たわ。その時私は二十二の新米シスターでした。姉妹のように、でも施設の者として時には厳しく接してきました」